実際に両者のテキストを読み比べると、問題はそれほど単純ではない。Huxley自身、Owenの提示した比較解剖学的枠組みを多く共有しており、その議論は単なる否定ではなく、19世紀形態学内部における再編成の試みとして読むこともできる。
今回の刊行では、Owenの記念碑的モノグラフと、それに対するHuxleyの批判論文を並置することで、19世紀比較形態学最大の論争を、現代日本語で直接たどれるようにした。現代の頭蓋骨研究はなおOwenの概念装置に多くを負っている。そればかりか、相同性(homology)と相似性(analogy)の古典的(進化論以前の)定義もまた、この著作において与えられ、それはいまなお有効性を失ってはいない。本シリーズでは、19世紀比較解剖学に特有の複雑な名称体系について、形態学的意味を損なわない範囲で整理を行った。いずれの巻にも訳者による解説(あとがき)を付す。「引用されるOwen」ではなく、「読まれるOwen」へ。そして、「勝者として記憶されたHuxley」を、実際のテキストへ戻す試みでもある。脊椎動物頭蓋の比較形態学と、その思想史を本格的に理解するための2冊。