これは、大統領として致命的に危うい発言です。
同盟国・準同盟国の安全保障を公開の場で値踏みすることは、同盟体系全体の信頼性を傷つけます。
トランプは今回、米国大統領が越えてはならない一線を複数同時に踏み越えました。
第一に、「59マイル vs 9,500マイル」という距離の論理です。これは「台湾は中国に近く、米国から遠い」という中国側のプロパガンダそのものです。台湾防衛の正当性を距離で相対化すれば、抑止は根底から揺らぎます。
第二に、台湾向け武器売却を「交渉カード」と位置づけたことです。台湾の防衛装備は生存に直結する生命線であり、それを対中取引の材料にすることは、「米国の支援は取引次第で止まる」という危険なメッセージを北京に送ります。
第三に、習近平から「台湾を防衛するのか」と問われて明確に答えなかったことです。これは戦略的曖昧性ではなく、中国に「米国は介入しないかもしれない」と読ませる危険な曖昧性です。
第四に、「台湾に独立を求めさせない」と踏み込んだことです。米国の従来の立場は台湾独立を「支持しない」であり、「反対する」ではありません。侵略する側ではなく、侵略される側に自制を迫る構図は倒錯しています。
第五に、1982年の「六つの保証」を時代遅れであるかのように扱った点です。台湾向け武器売却で中国と事前協議しないという原則を揺るがせば、米国の対台湾コミットメントの土台そのものが崩れます。
日本にとって、これは到底看過できません。
「台湾のために9,500マイル離れた米国が戦えない」という論理は、そのまま「なぜ日本のためには戦えるのか」という疑念につながります。在日米軍、拡大抑止、核の傘の信頼性まで同じ論理で削られていくからです。
さらに、日本が台湾有事への備えを強める一方で、米国が後ろに引くなら、最も危険な立場に置かれるのは日本です。南西諸島、台湾海峡、バシー海峡、エネルギー輸入路、半導体供給網は、いずれも直接の戦場・攻撃対象になり得ます。
これは、ウクライナで起きていることの東アジア版の予告編でもあります。友好国を「高コストな負担」として値踏みし、侵略者側の論理に近づき、被害者側に「挑発するな」と迫る構図が、太平洋にも転写されつつあります。
結論として、トランプの発言は台湾有事のリスク、とりわけ「米国が来ない台湾有事」の蓋然性を高めました。その場合、最前線に立たされるのは日本です。
だからこそ、日本は米国依存の一本足打法から脱却しなければなりません。抑止、継戦能力、弾薬・燃料・防空、海上交通路防衛、自立調達を組み直す必要があります。
同時に、ウクライナが実戦で磨いたドローン、電子戦、分散型防空、無人艇、低コスト長距離打撃の知見を本格的に取り込むべきです。高価な大型装備だけでは、飽和攻撃と消耗戦には耐えられません。
また、欧州との安全保障連携も一段引き上げる必要があります。英国、フランス、ドイツ、北欧、バルト諸国、ポーランドとの装備開発、弾薬生産、防空、サイバー、宇宙監視、制裁執行、海上交通路防衛での連携は、米国が揺らいだ場合の重要な保険になります。
日本の安全保障は、「米国が必ず来る」という前提から、「米国が来ない場合でも初動を耐え、同志国と持続的に戦える体制」へ移行すべきです。台湾有事は台湾だけの問題ではありません。日本の国家存立、エネルギー、シーレーン、半導体、そして同盟の信頼性が同時に試される危機です。
Trump on Taiwan:
When you look at the odds, China is a very, very powerful, big country. That’s a very small island.
Think of it; it’s 59 miles away. We’re 9,500 miles away. That’s a little bit of a difficult problem.
If you look at the history, Taiwan was developed because we had presidents that didn’t know what the hell they were doing. They stole our chip industry.