Googleが公表した量子計算に関する記事を出して話題になってますね。
Googleが出した最新のリソース推定は、「量子コンピュータが暗号を破る可能性がある」という従来の抽象的な議論を、現実的な時間軸と技術要件に引き寄せた点で重要な意味を持ちます。
同社は、ECDSA(BitcoinやEthereumに採用される署名方式)を破るために必要な計算資源について、従来よりも大幅に効率化されると結論付けました。具体的には、数分単位で暗号解読が可能となるとのことです。
この変化の本質は、これまの「暗号が破られる可能性がある」という抽象的リスクではなくなったということにあると思います。問題の焦点はすでに「破られるかどうか」ではなく、「どのように移行するか」に移っているということです。
この文脈で、ポスト量子暗号への移行を考えると、実は技術的には既に選択肢として存在しています。
例えば、格子暗号やハッシュベース署名など、量子耐性を持つとされる方式は存在するので、「量子耐性」という意味では解決策は存在します。
しかし難しいのはここから。
Bitcoinにおいては、量子耐性の問題は技術的課題であると同時に、コミュニティ的・社会的・政治的な問題でもあるのです。
どういうことかというと、Bitcoinには意思決定主体が存在しません。プロトコルの変更は、開発者、マイナー、ユーザー、企業など、多様な価値観、考え方を持つステークホルダーの合意が必要です。この構造は検閲耐性や非中央集権性を支える一方で、大規模な仕様変更を困難にします。
量子耐性を確保するためには、署名方式そのものを変更する必要がある可能性が高いが、これは互換性や既存アドレスの資産をどう扱うかの問題に直結する。特に、過去に生成されたアドレスや、すでに秘密鍵が失われた資産の扱いは極めて難しい論点です。
そこには利害の対立や意思決定の遅延が不可避に存在するので、仮に移行が提案されたとしても、それが採用されるかどうかは別問題です。
こうした状況の中で提案されている対策の多くは、「完全な解決」ではなく「リスクの低減」に留まっているのが現実です。
先日ニュースになってたこれ(
neweconomy.jp/posts/558749)も、公開鍵の露出を遅らせる設計(P2MRなど)は、攻撃機会を減らすという意味では有効だが暗号そのものの安全性を根本から変えるものではないという指摘もあります。
つまり現在のBitcoinの量子対応は、「技術的には解決可能な方法はあるが、現時点では猶予の確保に留まっており、社会的には未解決」という状態にあるわけです。
話を戻すと、今回のGoogleの提示したリソース推定は、この問題を遠い未来の抽象論から、現実の目の前の問題に引き戻したと思います。