私はFUJIYAMAの日本語クイズの作問者なのですが、
たびたび話題となるこの問題は日本人と日本語の特殊性に由来していると思います。
文化論としてまあまあ長くなってしまうので、暇な時にでも読んでください。
この話はわかりやすく喩えるなら、
日本語は(一部のワールド側では)パスポートであると同時に、(文化的には)ドレスコードのように捉えられているのではないか?
と私は考えています。
まず前提として、多くの日本人は外国語が苦手です。
これは日本人全体の統計の話なのですが、
日本人に英語で話しかけた時に英語で返してもらえる確率は10人に1人くらい、流暢な英語で返してもらえる確率は100人に2人くらいです。
実質的な第二言語がこの有様なので、韓国語や中国語のような他の言語では、さらに低くなります。
非常に嘆かわしいこと(?)ですが、これが現在の状況です。
さらにVRChatの日本語圏コミュニティでは、
英語を話したい日本人は「EN-JP Language Exchange」のようなワールドに行くと思うので、
この割合はさらに偏ると思います。
これは日本語圏の文化や環境の全てが、(外国語すらもカタカナとして取り込めてしまう性質をも持っている)
日本語だけで完結してしまっていることに、
海外から見た場合の問題(のようなもの?)があるのだと思います。
一方で、
世界で最も多く話されている英語話者は15億人、
中国語話者は12億人、
続くヒンディー語話者は6億人とされていますので、
「世界で一番が英語が使われているんだから、英語で喋ってくれたらいいのに」と思われるのは、とても自然なことだと思います。
しかも人口で言えば、
世界での日本語話者は1.26億人程度(日本の総人口 海外数十万人)しかいません。
これには、日本の地理的な特殊性と歴史的背景が関わっており、他言語国との交流が限定された中で独自に発展した経緯が考えられると思います。
さていったんここで、
あなたが海外旅行に行くことを考えてください。
そこは英語(もしくはあなたが普段から使っている言葉)がほとんど通じない地域です。
それらは例えば、インド、ブラジル、ペルー、トルコなどです(英語力ランキングから日本近辺で適当に抜粋)。
普段から英語を使っているあなたは、ヒンディー語、ポルトガル語、スペイン語、トルコ語などを、英語の代わりに使うことが出来るでしょうか?
これはおそらく難しいと思います。
このように、自分が普段から使っている言葉が通じなければ、コミュニケーションで大変に苦労することになります。
そしてこの傾向は全体として、
個人の勉強の話ではなく、第一言語で不自由をしていないほどに、集団として強くなります。
英語が通じない場合に英語話者が困るように、
日本語が通じない場合に日本語話者は困るのです。
このようなことが、日本人全体には、常に起きています。
日本語は、ほとんどの外国人に通じません。
ヒンディー語やポルトガル語やスペイン語なら、まあまあ通じる国が他にもあるのに、です。
さらに、日本国内では日本語だけで生活が完結してしまう。
そして、日本人は英語を使うことそのものに苦手意識を持っています(このことは日本の受験用の英語教育にも問題の一端があります)
さらに悪いことに、
日本人はこのことに関して、ほとんど諦めています。
なぜなら、日本人は全員が日本語話者なので、日本語だけで生活することで、まったく問題が発生しないからです。
しかも、日本語は日本人以外には難しすぎると、信じているからです。
なんなら、日本人でも日本語は難しいと思ってすらいます。ホワイジャパニーズピーポー。
その結果として、日本人は外国人に対して、日本語を使ってもらうことを、ほとんど求めません。
そしてその上で、日本語を勉強している・日本語で話したいと思っている外国人に対しては、基本的に非常に好意的です。
「私は私のことを好きな人のことを好き」的なヤツです。このことはある種のコミュニケーション上の保険として機能しているのだと思います。
ここで面白いのは、
日本人は外国人に日本語の習得を強制していない、ということです。
だからこそ、あえて、わざわざ、習得が大変な日本語を学んできてくれた海外の方に対して、
「この人は日本語圏の何かが好きなんだ」と、自然に感じることが出来るのです。
それは日本語を習得すること自体が、日本文化への関心やコミュニティへの参加意欲を示すシグナルとして受け取られやすい、ということです。
そしてそのキッカケとなることは、多くの場合は日本語のアニメや音楽といった、文化に根ざしているものであることが多い。
日本人も当然そうしたカルチャーが好きなので、すると自然に共通の話題にすることすらも出来ます。
海外の方々にとっては手間だと感じてしまうかもしれない日本語の習得は、
日本人にとっては手間以上に、
相手を判断する際のメリットとして発生しています。
日本語をそこまでして学ぶ人は日本文化が好きな人が多いので、結果的に歓迎されやすいのです。
その結果としてVRChatの日本語文化圏で広まったのが、入場クイズです。
4年ほど前に入場クイズに関する解説動画を海外ニキがアップロードしていましたが、個人的には"排除"は副次的なものであると思っています。
本物の排除を行う方法として、タイムゾーンによる入場の選別も開発されそうになっていました(私も設計のアイデアを考えていました)が、
あまりにも排他的な方法すぎて本当に無慈悲だったことに加えて、そうした排除はVRChatの規約上かなりマズい感じだったので、開発されて広まることはありませんでした。
また日本人自体も日本語クイズの難易度によって、日本人さえもフィルタリングする方法として、半ばジョークのように入場クイズを設けたワールドを作成することがあります。
「関西語話者」、「声フェチ」、「NSFW的なマッチングワールド(最初期のとあるワールドの作問も私が行いました)」ナドナド……
こうしたワールドでの入場クイズは、もはやワールド作者のセンスの出し所になっている側面すらもあります。
クイズの難易度の設定は入場する人物のフィルタリングとして非常に有効に機能するからです(私がマッチングワールドのクイズを難しく作ったのは言語能力が高い人同士でマッチングして欲しいと思っているイカれた思想のためです)。
このフィルタリング性能によって荒らしを排除したいといった話もされることもあるかと思いますが、
簡単な入場クイズは荒らし対策としてはほとんど全く効果がありません。
これは荒らしが国籍や言語に関わらずに発生するためです。
なんなら、日本語を使っている日本人の荒らしのほうがよっぽどタチが悪いです。
そして、こうした人々に対する対策として、追放やブロックが有効であることは世界共通です(話は逸れますが、私のオススメはアバターブロックとスピーカーミュートによる無視です。ガチで効く)。
そうした場合、たとえ同じ言葉を使っているように思えても、まともなコミュニケーションは不可能です。気にしないでください。
重要なのは、クイズの課題として設定されているのは"日本語能力"であって、"日本人であること"ではないことです。
これが多くの日本語クイズが設置されているワールドにつけられている「日本語話者向け」という言い回しの理由です。
実のところ、日本語を扱ってくれさえすれば、世界中のどの国籍の方でも歓迎したいのです。
実際に、韓国出身の方が日本人よりも流暢な日本語で超オシャレなアバター改変の話をしている光景は、VRChatの日本語圏コミュニティでは珍しくないと思います。
むしろ多くの日本人が、そうしたクリエイター達の衣装やアバターを、日本語・韓国語・英語の三言語で商品ページから買いまくっているものだと思います。
これは「国籍」ではなく「日本語での意思疎通ができるかどうか」が本質であることを示している例だと思います。
しかし一方で、クイズによってワールドへの入場が制限されてしまうような状況を"閉鎖的"と認識されるのは、心情としては非常に適切だと思います。
実質、日本人は精神的に、日本語による鎖国を行っていると思います。
そうして日本語という言語でコミュニティを維持しようとしている以上、外から見ると閉鎖的に見えるのはまったく自然なことだと思います。
しかし、その閉鎖性は国籍や人種ではなく、言語によって行われているのです。
つまり日本語は、私たち日本人にとって、
「この言語圏でのコミュニケーションが行えます」という、共通認識を示す文化的パスポートのようなものだと考えているのです。
海外に行く際にパスポートが必要なのは、「この人は入国しても問題ない人物」だと証明できるからです。
文化的に似たようなことが、日本語しか話せない日本人にとっての入場ゲートとして設置されています。
この場合には、日本語を扱えること自体が、「この人はこの言語圏に入場しても問題ないほどに、その周辺の何かが好きな人物」として、ほとんど証明に近いような形で、受け止められやすいのです。
そして実際には、海外旅行に行くためにパスポートを取得すること以上に、日本語を習得することは難しいと思われているのです。
また、パスポートは国際的なルールとして設定されているものですが、日本語はそうしたルールとして留まることはなく、ドレスコードとしても機能することがあるのです。
つまり、「日本語だけによってコミュニケーションをしていることが前提の日本語圏に訪問したいのであれば、日本語をクイズを突破出来る程度に扱えることは、参加するために定められた最低限の条件だよね?」と、言外に提示しているのです。
そして一方で同時に、そこまでの条件を設けている日本語話者である日本人は、
そうしたある種のドレスコードを守り、
"日本のこと、好きですよ!"という顔をして難なく入場ゲートを突破してくる外国人には、
「入場おめでとう!大変だったでしょう?歓迎します!」と言いたいのです。
このように考えている日本人は数多くいて、もはや主流にすらになっているかと思いますが、決して全てではありません。
「VRC-JP 初心者プラザ」というワールドでは、日本語クイズは設置されていません。
これは言語によるフィルター無しに、より多くの人に入場してもらいたいという願いがあるためです(私はオープン前プレビューイベントに招待された際に確認として質問しました)
「新宿ライブストリート ⁄ Shinjuku Live Street」にも、日本語クイズは設置されていません。
このワールドは路上ライブ専用ワールドを目指していて、音楽に言葉の国境はいらないからです(たぶんそういうことだと思います)。
「ポピー横丁-Poppy Street-」にも、日本語クイズは設置されていません。
作者であるコクリコさんのスタンスは混沌です。他には秩序の補助輪さん(JTR作者)や中庸のたましこさん(JTW作者)がいます(インタビュー記事、"日本人が集まるワールドの制作者が集う! ワールド制作者座談会"より)
長くなりましたが、まとめると、
日本人は「外国人だから歓迎しない」のではなく、「日本語で話せるなら国籍は関係ない」と考える人が多いのです。
だから日本語クイズは、国籍を選別するものではなく、コミュニケーション手段を確認する文化として、広まっているのだと思います。
もちろん、その結果として海外の方から閉鎖的に見えてしまうことも理解しています。
こうした認識の違いこそが、日本語クイズを巡る議論が繰り返されてしまう理由なのだと思います。
だからこそ、こうした背景を知ってもらえたら嬉しいです。
入場クイズは、日本人を守るためではなく、
日本語だけで交流できる文化空間を維持するための仕組みとして自然発生したものであって、
人を排除するためではなく、コミュニケーションコスト(世界的に見て特殊な文化圏への説明コスト)を下げる装置なのです。
海外の方々には、この難解で面白い日本語とかいう厄介な言語を少しだけでも習得して、
「大変だったでしょう?歓迎します!」と思われてほしい、と願っています。
そんな願いも込めて、私はFUJIYAMAの入場クイズを、ただの知識を問う問題ではなく、誤答も含めて読んで面白いと思えるように作りました。
私はVRChatを8年で約3万時間ほど起動していますが、だいたいそんなカンジで見ています。
このような話題と議論はたびたび起こるので、
巡る季節のように定期的に繰り返される
#バーチャル四季 として、またもやタグ付けしておきますね。
前回は、コチラ……
x.com/_mumumu/status/1836518…