『芝浦屠場千夜一夜』(青月社)を出すにはあきれるほどの長い時間がかかりました。
書けなかっただけではなく、ためらいもありました。
忘れられない場面があります。
東北のある屠場に見学に行った時のこと。
そこには食肉の仕入れ業者の方が、自分の保冷車に同乗させて連れて行ってくれました。
「解体作業場に立派な見学通路が整っていて、希望者は誰でも見学歓迎なんだよ」と。
でも行って見ると、様子はすっかり変わっていたのです。見学は一切させないと。
そこでは、屠場の実際の様子を多くの人に見てもらうことで、差別偏見を解消しようとしていました。
施設の新設に際して見学コースをつくったのです。
でも屠場は牛が死ぬことは確かですし、血も流れます。
「やっぱり残酷だ…」の声も上がって。
その反応に打撃を受けた屠場側は、もう一切見学を受け入れなくなってしまっていたのです。
生きることは食べることです。
食べ物は動物にしろ植物にしろ大部分は生きています。
それを生き物から食べ物に変える仕事があります。
魚でもエビやカニでも、生きているものをご自身で調理した経験がおありでしょうか?