一般大学生。

Joined November 2023
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彼氏に「俺の親に会う時、その地雷系の服やめて」と言われて、何も言えなくなった。 付き合って2年。 私は、いわゆる地雷系のファッションが好きだった。 黒とピンクを基調にした、フリルとリボンの服。 量産型とも言われるけど、自分の「好き」を詰め込んだ大切なスタイルだった。 彼も、最初は「可愛いね」と言ってくれていた。 その服が好きで付き合い始めたはずだった。 ある日、彼の両親に会うことになった。 当日、いつものように地雷系の服を選んだ。 待ち合わせで、彼に会った。 彼は、私を見て、顔をしかめた。 「その服、やめてくれない?」 「え?」 「親に会うのに、
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その地雷系はちょっと。」 「これ、いつも可愛いって言ってたよね。」 「2人の時はいいけど、親の前では。」 「私の好きな服だよ。」 「わかってる。でも、誤解されるから。」 「誤解って何?」 「メンヘラっぽいとか、思われたくないんだよ。」 固まった。 私の「好き」が、彼にとっては「隠したいもの」だった。 「じゃあ、あなたは私の服が恥ずかしいの?」 「恥ずかしくはないけど。」 「けど?」 「TPOってあるじゃん。」 何も言えなかった。 結局、その日は地味な服に着替えて行った。 鏡に映る自分が、自分じゃないみたいだった。 友達に話した。 「彼氏に、親に会う時は地雷系やめてって言われた。」 「えー、好きな服なのに。否定されるのつらいね。」 「だよね。」 「ありのままの自分を受け入れてほしいよね。」 別の友達は違った。 「いや、それは彼氏が正しいよ。」 「え?」 「親に会うなら、
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TPOは大事でしょ。」 「でも私の個性だよ。」 「個性は大事だけど、相手の親に合わせる気遣いも必要じゃない?」 「好きな服を我慢してまで?」 「数時間のことなら、合わせてもいいと思う。」 意見が分かれた。 好きなファッションを否定されるのは、自分を否定されることなのか。 親に会うなら、TPOに合わせるべきなのか。 ありのままを受け入れてほしいのは、わがままなのか。 数時間の我慢も、できない方がおかしいのか。 私は、好きな服を着てるだけだった。 なのに、その服を隠さなきゃいけない相手と、この先ずっと一緒にいられるのかな。 服を着替えるたびに、自分の一部を脱がされてる気がした。
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後輩は毎日Diorのショッパーで出社していた。 見栄っ張りと陰口を叩かれていた。 でもそのボロボロの紙袋を、私だけは笑えなかった。 後輩は今年入ってきた子だった。 20歳の派遣の子だった。 毎日同じDiorの紙袋で来た。 中には弁当と財布が入っていた。 完全にバッグ代わりだった。 紙袋は日に日にボロくなった。 角が擦り切れて持ち手がよれていた。 それでも替えなかった。 給湯室では噂になっていた。 「なんで毎日紙袋なのww」 「私は絶対無理!」 先輩たちが笑っていた。 私はその輪に入れなかった。 前に一度だけ見たことがあったから。 その子が紙袋の底を、テープで補強しているところを。 誰にも見られないように直していた。 その手つきが必死だった。 ただの見栄であんなに必死になる子はいない。 ある朝。 その紙袋が ついに破れた。 エレベーターの前で中身がぶちまけられたんだけど、
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散らばったのは弁当と財布だけじゃなかった。 写真が一枚落ちていた。 私はそれを拾った。 母親と小さい女の子が写っていた。 背景にあのDiorの店があった。 後輩が慌てて写真を取り返した。 「すみません」とだけ言った。 その日の帰りにその子に声をかけた。 「あの写真、お母さん?」 少し迷ってから話してくれた。 母親は3年前に亡くなっていた。 写真は母親が生きていた頃の最後の旅行だった。 母娘で東京に出てきた日。 母親がDiorの前で立ち止まった。 「いつかここで買い物できる人になりなさい」 そう言ったらしい。 母娘にとっては別世界の店だった。 入る勇気もなかった。 ウインドウを見ただけで帰った。 母親が亡くなった後。 その子は一人で上京して働き始めた。 初任給で初めてDiorに入った。 買えたのは一番安い口紅一本だった。 それが精一杯だった。 その時にもらった紙袋だった。 「母に見せたかったんです」 「ここで買い物できたよって」 紙袋は母親への報告だった。 毎日持ち歩いていたのは見栄じゃなかった。 母親と一緒に通勤しているつもりだったのだ。 破れても替えられないはずだった。 代わりがない紙袋だった。 翌日。 私はその子に新しい紙袋を渡した。 でもその子は古い方を捨てなかった。 破れた紙袋を畳んで定期入れに挟んだ。 「これは、お守りなので」 新しい紙袋を使い始めたその子に、もう誰も何も言わなくなった。 見栄っ張りと笑われていた紙袋は、亡き母との約束を果たした娘の卒業証書だった。
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父は40年間「家族でプロ野球を見たい」と言い続けた。 一度も叶わなかった。 父の葬式で、その理由を母が初めて話した。 父は野球が好きだった。 休みの日はいつもテレビで観ていた。 「次の日曜、球場行くか」 子供の頃よく言われた。 でも当日には必ず流れた。 父が「やっぱり仕事が入った」と言うからだった。 それが何十回も続いた。 私は思っていた。 口だけの人だと。 家族より仕事の人だと。 大人になって私は実家を出た。 父とは年に数回会うだけになった。 去年父が倒れた。 あっという間だった。 葬式の夜。 「え?なにこれ。」 私は膝から崩れ落ちた。 母が、
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一枚のチケットを出してきた。 40年前の野球のチケットだった。 4枚あった。 一度も使われていなかった。 母がそのチケットの話をしてくれた。 40年前の日付だった。 私が生まれる前の試合だった。 「お父さんね、これ買った日にあなたを身ごもったの」 家族で行くはずだった初めての野球だった。 でも母が出産間近で行けなくなった。 父はチケットを払い戻さなかった。 「次は子供と4人で来る」 そう言って取っておいたらしい。 でも子供が生まれて生活が変わった。 父の給料は多くなかった。 家族4人分の球場代は高かった。 外野でも当時の家計には重かった。 父は毎年「行くか」と言った。 でも家計を見るたびに諦めた。 「仕事が入った」は嘘だった。 お金がなかったとは言えなかった。 子供にひもじい思いをさせていると思わせたくなかった。 だから自分が悪者になった。 母が続けた。 「お父さん、あなたの学費だけは一度も削らなかったのよ」 野球を40年我慢した人だった。 私はチケットを握って母に聞いた。 「この試合、どこの球場だったの」 その球場はもう取り壊されていた。 跡地は今は別の球場になっていた。 四十九日の後。 私はその新しい球場に行った。 チケットを4枚持って。 席は買えるだけ良い席を4つ取った。 母を連れて行った。 弟も呼んだ。 一席だけ空けておいた。 そこに父の写真を置いた。 40年前のチケットを膝に乗せた。 試合が始まった。 母がぽつりと言った。 「お父さん、やっと来れたね」 父が口だけだと思っていた40年。 それは自分の楽しみを全部子供に渡し続けた40年だった。
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彼氏とのデート中、トイレに行った隙に、私のスマホを勝手に見られていた。 付き合って1年。 その日は、カフェでまったりデートしていた。 トイレに立った。 スマホは、テーブルに置いたまま。 別に、見られて困るものはなかった。 戻ってきた。 彼氏が、なんか変だった。 私のスマホを、慌ててテーブルに戻した。 「今、私のスマホ見てた?」 「いや、見てないよ。」 「画面、ついてたよ。」 「……ちょっとだけ。」 「ちょっとだけ?」 「通知が来てたから、気になって。」 「勝手に見たの?」 「やましいことないなら、いいでしょ。」 その言い方に、固まった。 「やましいことがあるかどうかじゃなくて、勝手に見るのが嫌なんだけど。」 「俺は君のスマホ、いつ見てもいいと思ってるよ。」 「え?」 「付き合ってるんだから、
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隠し事しないでしょ?」 「隠し事とプライバシーは違うよね。」 「同じじゃん。見られて困ることないなら。」 平行線だった。 友達に話した。 「彼氏に勝手にスマホ見られた。やましいことないなら見ていいって。」 「えー、それは無理。プライバシーないじゃん。」 「だよね。」 「付き合ってても、スマホは個人のものでしょ。」 別の友達は違った。 「うーん、でも隠し事ない関係って理想じゃない?」 「でも勝手に見るのは違くない?」 「お互いオープンなら、見られても平気でしょ。」 「平気かどうかじゃなくて、勝手に見られるのが嫌なんだよ。」 「私はむしろ、見せ合える関係の方が安心するけどな。」 意見が分かれた。 付き合っていても、スマホは個人のプライバシーなのか。 隠し事のない、見せ合える関係が理想なのか。 「やましいことないなら見ていい」は、正論なのか暴論なのか。 私は、彼氏に隠し事なんてなかった。 でも、「見られて困らないでしょ」と言われた瞬間、信用されてないのは、私の方だと気づいた。 疑ってるから、見るんだ。
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友達の家に泊まったら宿泊代請求されたんだけど、、 地方から、その子が住む東京に遊びに行った。 「うち泊まっていいよ!ホテル代もったいないし。」 そう言ってくれた。 ありがたく、泊まらせてもらった。 手土産も持って行った。 夜は2人で楽しく過ごした。 翌朝、帰り支度をしていた。 すると、その子が紙を渡してきた。 「これ、お願いね。」 見ると、こう書いてあった。 「シーツクリーニング代 1000円」 「え、これ何?」 「泊まったらシーツ洗わなきゃだから。」 「あ、うん。」 「あと、タオルも使ったよね。それも込みで1000円。」 固まった。 泊めてくれたのは、ありがたい。 でも、クリーニング代を請求されるとは思わなかった。 「自分で誘ってくれたよね?」 「誘ったけど、洗濯の
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手間もかかるし。」 「そっか。」 払った。 なんか、モヤッとした。 別の友達に話した。 「友達の家泊まったら、シーツのクリーニング代1000円請求された。」 「えー、それは引くわ。自分で誘ったのに。」 「だよね。」 「泊めるって言ったなら、それくらい負担すべきでしょ。」 別の友達は違った。 「いや、私はその子の気持ちわかるよ。」 「え、わかるの?」 「ホテルより全然安いじゃん。1000円なら良心的。」 「でも友達だよ?」 「友達だからって、タダで負担させるのも違くない?ホテル代浮いてるんだし。」 意見が分かれた。 泊めると誘ったなら、クリーニング代は負担すべきなのか。 ホテルより安いんだから、1000円は良心的なのか。 友達からお金を取るのは、ありえないのか。 実費だけなら、むしろフェアなのか。 1000円は、安い。 ホテルよりずっと安い。 頭ではわかってる。 でも、「泊まりにおいで」の優しさが、朝の請求書で上書きされた感じが、ちょっとだけ悲しかった。
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後輩が「2分以内に投稿」の通知に急かされて自撮りした。 背景に映っていたのは取引先の名簿だった。 気づいた時にはTwitterで1.2万いいねついていた。 後輩は入社1年目だった。 明るくて誰にでも好かれる子だった。 その日は新規案件の追い込みだった。 全員が深夜まで残っていた。 机の上には資料が広げっぱなしだった。 後輩のスマホに通知が来た。 「2分以内に投稿しよう」 BeRealだった。 後輩は自分の席で自撮りした。 疲れた顔でピースをしていた。 普段通りの1枚だった。 投稿してすぐ作業に戻った。 異変は30分後だった。 先輩がスマホを握って叫んだ。 「これ誰だ。今すぐ消せ」 後輩の背後にホワイトボードが写っていた。 取引先の社名と契約金額が並んでいた。 その写真はもう、
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拡散の途中だった 後輩はすぐ投稿を消した。 でも遅かった。 スクショが1.2万いいねまで伸びていた。 取引先の名前は完全に特定されていた。 その取引先は翌朝に契約を切ってきた。 年間3億円の案件だった。 会社は大損害を出した。 後輩は会議室で泣いていた。 役員に囲まれていた。 「損害をどう責任取るんだ」 入社1年目に払える額じゃなかった。 私は先輩として同席していた。 その時に気づいたことがあった。 後輩のBeRealは鍵アカウントだった。 友達5人にしか見えない設定だった。 なのに外部に流出していた。 誰かが保存して流したことになる。 私はその5人を後輩に聞いた。 全員同期だった。 一人だけ最近様子がおかしい子がいた。 その子は後輩と同じ案件を争っていた。 後輩の方が評価されていた。 私はその子のSNSを調べた。 最初に拡散した匿名アカウント。 投稿時間と言い回しが一致した。 その子が後輩を蹴落とすために流していた。 会社に報告した。 調査が入って本人が認めた。 後輩の処分は撤回された。 でも会社は3億円を失ったままだった。 後輩は責任を感じて辞表を出した。 役員は受け取らなかった。 理由が意外だった。 切れたはずの取引先から連絡が来ていた。 「御社の対応を見て、もう一度組みたい」 情報を流した犯人を社内で庇わず処分したこと。 それが取引先の信頼を取り戻していた。 3億円は戻らなかった。 でも取引は再開した。 後輩が落とした1枚は会社を一度沈めた。 その会社をすくい上げたのは、犯人を隠さなかった会社の姿勢だった。
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母の日に何もしなかったら、母から「お母さんやめます」という通知が来た。 社会人になって3年。 仕事が忙しくて、毎日バタバタしていた。 その日も、残業で疲れて帰ってきた。 スマホに、母からのLINEが届いていた。 タイトルみたいに、一言。 「お母さん、やめます。」 え? 固まった。 何かあったのか。 慌てて、続きを読んだ。 「今日は母の日でしたが、何もありませんでしたね。」 そこで、気づいた。 今日、母の日だった。 完全に、忘れていた。 「毎年、何かしてくれてたのに、今年は無し。」 「お母さん、ちょっと寂しくなっちゃった。」 「だから、お母さんやめて、ただのやす子に戻ります。」 冗談っぽく書いてあった。 でも、本気の寂しさが、にじんでいた。 慌てて電話した。 「お母さん、
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ごめん!忘れてた!」 「いいのよ、忙しいんでしょ。」 「いや、よくない。本当にごめん。」 「冗談よ、冗談。」 「でも、寂しかったんでしょ。」 母が、少し黙った。 「……まあ、ちょっとね。」 「ごめん。」 「謝らなくていいの。元気ならそれで。」 電話を切った後、考えた。 母は、毎年私の誕生日を覚えていてくれる。 何かあれば、すぐ連絡をくれる。 なのに私は、母の日すら忘れていた。 母にとって、私は世界の中心なのに。 私にとっての母は、いつの間にか「いて当たり前」になっていた。 週末、何も言わずに実家に帰った。 カーネーションを持って。 ドアを開けたら、母が驚いた顔をした。 「どうしたの、急に。」 「お母さん、辞めないで。」 母が、笑った。 そして、ちょっと泣いていた。
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久しぶりに実家に帰ったら、私の部屋がジムになってたんだけど 上京して、5年。 仕事が忙しくて、なかなか帰れなかった。 久しぶりに、実家に帰った。 「ただいまー。」 「おかえり!」 母が出迎えてくれた。 懐かしい匂いがした。 荷物を置こうと、自分の部屋に向かった。 ドアを開けた。 そこには、私のベッドも、机も、なかった。 代わりに、ランニングマシンと、ダンベルが並んでいた。 私の部屋が、ジムになっていた。 「ちょっと、私の部屋は!?」 母を呼んだ。 「あー、あんた帰ってこないから。」 「物とかは!?」 「段ボールに入れて、押し入れにしまってあるわよ。」 「勝手に!?」 「だってもう使ってないでしょ。」 ショックだった。 確かに、5年帰ってない。 でも、自分の部屋が消えてるなんて。 なんか、実家に帰る場所がなくなった気がした。 その夜、母と話した。 「やっぱり、ちょっと寂しいよ。」 「あら、ごめんね。」 「相談してほしかったな。」 「でもあんた、
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もうこっちに戻る気ないんでしょ?」 「それは、まあ。」 「お父さん、運動不足で。あの部屋、日当たりいいから。」 「お父さんのため?」 「健康診断、引っかかっちゃってね。」 黙った。 私が出て行った部屋で、父が運動している姿を想像した。 ちょっとだけ、笑えた。 「お父さん、ちゃんと運動してる?」 「毎日やってるわよ。あんたの部屋だと頑張れるって。」 「なんで。」 「あんたが小さい頃の写真、そこに飾ってるから。」 涙が出そうになった。 部屋はなくなった。 でも、私の居場所は、ちゃんと家族の中に残っていた。 形が変わっただけだった。
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「ドパガキは一生それ見てろ」 父が弟のスマホを床に叩きつけた。 割れた画面に表示されていたのは動画じゃなかった。 弟は高2だった。 朝も夜もスマホを離さなかった。 食事中も歩きながらも見ていた。 スクリーンタイムは一日21時間。 寝ている時も動画を流していた。 父は毎日それで怒鳴っていた。 「そんなもん見て何になる」 弟は何も言い返さなかった。 それがまた父を苛立たせた。 その夜も同じだった。 夕飯の最中に弟がスマホを見た。 父が立ち上がってスマホを奪った。 そして床に叩きつけた。 画面が割れた。 弟が珍しく叫んだ。 「それだけはやめろよ!」 今まで聞いたことのない声だった。 父が一瞬ひるんだ。 割れた画面はまだ光っていた。 私はその画面を覗き込んだんだけど、
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画面に映っていたのは編集アプリだった。 動画を「見ている」んじゃなかった。 「作っている」画面だった。 タイムラインが何十個も並んでいた。 弟はスマホを拾って黙って部屋に入った。 私は後を追った。 「あれ何なの」 弟は少し迷ってから別のスマホを出した。 サブ機だった。 アカウントを見せてくれた。 フォロワーが28万人いた。 料理を作る祖母の動画だった。 うちの祖母だった。 3年前に祖母は認知症と診断されていた。 新しいことはもう覚えられない。 昔の手の動きだけは残っていた。 包丁。出汁。煮物。 体が覚えた60年分のレシピ。 弟はそれを毎日撮っていた。 「ばあちゃんが忘れる前に、全部残したくて」 寝ている時に流していたのも祖母の動画だった。 「ばあちゃんの声、寝てる間も聞いていたくて」 21時間の正体だった。 コメント欄を見せられた。 「このレシピで母を思い出しました」 「亡くなった祖母と同じ味でした」 知らない人たちが祖母の料理で泣いていた。 弟の時間はスワイプじゃなかった。 撮影と編集の時間だった。 祖母が台所に立てる時間に合わせていた。 夜中の編集は祖母を起こさないためだった。 「父さんには言うなよ」 「ばあちゃんの病気、心配かけたくないから」 弟は父の暴言を3年間黙って受けていた。 祖母の病名を隠すためだった。 翌朝。 私は父に全部見せた。 28万人の前で笑う祖母を。 父は割れたスマホを両手で持ったまま動かなかった。 「すまなかった。」 その日のうちに父はスマホを買いに走った。 最新のiPhone17Proだった。 弟に黙って渡した。 父がドパガキと罵った21時間は、家族の誰よりも家族を残そうとした時間だった。
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合コンで飲んだ男から、後日「この前の飲み代、割り勘なんで1500円振り込んでください」と連絡が来た。 友達に誘われて、合コンに行った。 4対4の、よくある飲み会だった。 会計の時、男性陣が「ここは出すよ」と言ってくれた。 「ありがとうございます!」 女子は払わずに済んだ。 そういう流れだった。 楽しかったし、1人だけ感じのいい人がいた。 連絡先を交換した。 数日後、その人からLINEが来た。 ちょっとドキドキした。 開いた。 「この前はありがとう!」 「楽しかったです!」 そう返した。 すると。 「ところで、この前の飲み代なんだけど。」 「はい?」 「男だけで多めに払ったから、
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女子も1人1500円ずつお願いしてて。」 「あ、そうなんですね。」 「振込先送るね。」 その場では「出すよ」って言ってたのに。 後から、しれっと請求してきた。 しかも、振込。 友達に話した。 「合コンの男から、後日飲み代1500円請求された。」 「えー、最低。その場で出すって言ったのに?」 「そう。」 「後出しで請求とか、ありえない。」 「しかも振込だよ。」 「うわ、せこい。それはもう恋愛対象外だわ。」 別の友達は違った。 「でも、男が全部出すのが当然って考えも古くない?」 「いや、その場で出すって言ったんだよ?」 「言い方は悪いけど、割り勘自体は普通でしょ。」 「最初から割り勘って言えばいいじゃん。」 「見栄張っちゃったんじゃない?それはそれで可愛いような。」 意見が分かれた。 その場で出すと言ったのに、後日請求するのは、ありえないのか。 割り勘自体は、今の時代普通なのか。 後出し請求が、せこいだけなのか。 見栄を張った可愛げと取るべきなのか。 1500円は、別に惜しくない。 ただ、「出すよ」のかっこよさが、3日後に消えたのが、一番がっかりした。
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