「Y染色体」議論を見たびに違和感しかない。
この言葉で皇室が語られるようになったのは、せいぜい2000年代以降ではないだろうか。
そもそも、皇室の男系継承を「Y染色体」で説明する議論にはかなり無理があると思う。
歴代天皇が男系継承を重視してきた時代に、Y染色体という概念は存在していなかった。
つまり、伝統として守られてきたものを、後世の科学用語で無理やり説明し直しているだけではないか。
しかも、本当にY染色体が根拠だと言うなら、歴代天皇のY染色体が連続していることを証明しなければならない。
しかし、そんな証明はできない。
証明できないものを「科学」のように語るのは、むしろ非科学的だ。
結局これは伝統の話でも科学の話でもない。
男系継承を守りたいという結論が先にあり、その正当化のためにY染色体という言葉を後付けで持ち出しているように見える。
皇室の歴史を語っているようで、実際には現代の政治的主張を「科学っぽく」見せているだけではないだろうか。
私にも息子がいる。
だからといって、「夫のY染色体が残った」などと考えたことは一度もない。
息子は夫の分身でも遺伝子の運び屋でもなく、一人の人格を持った人間だからだ。
人を家系や遺伝子の容れ物のように扱う発想には、どこか生命への敬意の欠如を感じる。
そして何より、千年以上にわたり文化や歴史、祭祀を受け継いできた皇室を、たかだか一本の染色体の話に矮小化してしまうことこそ、皇室に対して失礼ではないかと私は感じる。