スペースXを巡る評価。主幹事証券として投資家へ株式を販売する立場のGS、MSの強気予想と、シビアに見るバリュエーションの権威や独立系調査機関。
時価総額1.75兆ドルの市場評価はどうなる?
2030年の調整後EBITDAは、ゴールドマン・サックス(GS) 3,520億ドル、モルガン・スタンレー(MS) 2,300億ドル規模となるリサーチを提供。公開価格の時価総額1.75兆ドルに対するGS予想調整後EBITDA倍率は2030年に5倍弱に。GS、MSは主幹事証券として投資家へ株式を販売する立場。
破壊的イノベーションを起こす企業への投資で知られるARK Investment Managementを率いるキャシー・ウッド氏は2030年までに時価総額2.5兆ドルに達すると予測。
一方、中立の立場からは公開価格の時価総額は割高との声も出ている。
バリュエーションの権威のニューヨーク大学アスワス・ダモダラン教授はスペースXの目論見書に掲げられた26兆ドルのAI市場(TAM)を「かつてのUberやAirbnb上場時を思わせるファンタジー」と論評し、株式価値は1.25〜1.35兆ドルと試算し、自身のブログを公開している。
モーニングスターのニコラス・オーウェンズ氏は、DCF法での株式価値を7,800億ドルが適正価値と評価している。IPO想定時価総額の半額以下である。本業である打ち上げ・Starlinkの価値を6,110億ドルとし、AI事業の価値を1,700億ドル(オプション価値としての確率加重評価)と極めてシビアに見積もっている。同氏はxAIを「価値破壊の重大な脅威」と呼び、「経済的な堀(モート)は判定不能」とした上で、「投資家はIPO後により良い水準で買う機会を得られる」と述べている。
主幹事証券であるゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーは、スペースXのリサーチはAI事業の大成功(宙空間に配置されたAIデータセンター・インフラの実現、AIアプリケーションが爆発的なサブスクリプション収益を得る)を前提としている予想を出している。
*なお、両社のレポートは公開されたものではなく、米国の金融メディアが主幹事証券が機関投資家へ説明している内容を聞き出し報じた内容をまとめたものである。
〇筆頭主幹事証券であるゴールドマン・サックス(GS)の予測
2025年の総売上を187億ドル→2030年4,740億ドル、うち、AI売上32億ドル→2030年3,220億ドル(AI部門100倍成長)
2025年の調整EBITDA 66億ドル→2030年 3,520億ドル
FCFは、先行投資がピークに達する2029年に▲1,050億ドル、2031年 720億ドルで黒字転換するという、非常に「ボラティリティの高い」キャッシュフロー・モデルを提示
〇共同主幹事証券であるモルガン・スタンレーの予測
2030年の売上高: 約3300億ドル(AI部門が約1900億ドルを占めると予測)
→2040年の売上高: 3兆4000億ドルへ到達
2030年の調整後EBITDA: 2,300億ドル規模
→2040年の調整後EBITDA: 2兆7000億ドル超
また、スペースXが今後投下する設備投資(Capex)は「地上データセンター」「宇宙データセンター(軌道上コンピュート)」「打上げインフラ」へ膨大な投資額が必要であり、2030年までの累積では3,000〜3,500億ドル規模が見込まれている。これはIPO時の調達額の750億ドルを大幅に超える金額であり、IPO後のさらなる資金調達の必要性が示唆される。
図表はスペースXのロードショー資料より。
スペースX(SPCX)が予定する750億ドル(約12兆円)調達のIPO、機関投資家との個別会合を経た段階で応募超過となる需要を集めているもよう(Bloomberg報道)。
初値はどうなる?(下記詳細)
【IPO取扱い証券会社・申込概要】
みずほ証券、楽天証券、SBI証券で申し込みを受け付けている。
6月11~12日まで。日本では最大25億ドル(4000億円)を募集予定。。
NISA対象、外国株取引口座を開設する必要がある。
楽天証券は「円」で申し込み。ドルへの為替手数料はゼロ(IPO時のみ。上場後は1ドルあたり25銭)。
SBI証券は「ドル」で申し込み。SBIハイパー預金残高10万円以上で当選確率がアップ。
みずほ証券はネット窓口はなし。申し込みは12日のみ。抽選はせず任意に割当。ドルと円のどちらでも申し込み可能。
申し込みは1株から可能。楽天証券では申込株数単位ごとに抽選権が付与される。SBI証券では一部の配分について、SBI新生銀行での預金残高の条件を満たす落選者に対して追加抽選を実施する。
日本企業のIPOの抽選では公開価格が決まった後に購入するかどうか意思表示する機会がある。今回は辞退の意思を示さなければ自動的に購入となる。
【初値予想に関する識者見解】
・一般論として米国では日本に比べ公開価格と初値の差が開きにくい。日本のIPOは個人中心で、値付けに需要が反映されにくいが、米国ではIPO参加者の大半が機関投資家で、需要が公開価格に反映されやすい。
21〜25年のIPOでの初値騰落率は、日本は平均48%、米国は平均29%だった。(日経より)
・個人投資家向け株式配分が30%と異例に大きい。SpaceXのIPOへの個人投資家の参加率は高いと見込まれており、取引開始後のボラティリティ上昇の要因になる可能性がある。
・個人投資家の参加と指数組み入れが上場初期の株価動向を左右する重要な要因となるだろう。(S&Pは上場直後の指数組み入れはされない。ナスダック100(QQQ)は組み入れられる)
(おまけ)個人的見解
まず、私はスペースXのIPOへの申し込みはしません。
スペースXはファンダメンタルズより物語(ストーリー)が需要を作っています。一般的な指標で見るバリュエーションは超割高ですが、株式を販売したい立場であるGSやMSのリサーチが出している将来予測が実現するのなら、正当化できます。
株式の需給がタイト(売出株比率が4%程度)でありロックアップもあり、個人投資家人気も考えると、IPO直後に大きく崩れることはなさそうな気はします。ボラティリティも大きくなりそうなので、「トレーダー」が売買するのは妙味があるかもしれません。
スペースXは多額の設備投資計画を要し、また、技術的に簡単なことをしようとしているわけではありません。イーロン・マスク氏の人類の文明を前に進める偉大なチャレンジの達成期待にはわくわくしますが、一本道に実現できるとは限りません。長期投資家であれば、上場後の何年間の間にじっくり機会をうかがっていれば株価が下がるタイミングがあれば拾えばいいし、そうでなくても、巨額な時価総額を背景に指数への組み入れでのエクスポージャーを持てば一般的には十分かもしれません。
成長株投資は、ホットな面とクールな面の両面を見ることが必要です。本件は、非常に興味深く、関心を持っています。
*IPO国内募集スケジュールの表は日経記事より