【森博嗣さんのギャラ交渉から学んだ作家のプロ意識】
森博嗣さんがギャラ交渉をきちんとされる方であることは、エッセィを読めば明らかです。
いつも「森さんは本当に超一流のプロフェッショナルだな」と感じるのは、まさにそういう仕事術の部分なのです。
そして、それは流水自身には決定的に欠けている、自分の弱点であることも、昔からよく自覚しています。
森さんは「相手が支払い可能な最高額のギャラをつねに要求する」というスタンスをお持ちで、それを最初に知ったときには驚きましたし、「自分には、とてもマネができない」と思ったものです。
その気持ちは、いまもまったく変わっていません。
流水の場合、そのときの自分のベストだと断言できる作品や原稿を提出することには妥協せずこだわり続けてきましたが、それらが他の作家さんたちより優れていると思ったことは一度もありません。
この流水Xでは何度も書いてきたように、いつも「自分以外の全員が天才、自分だけが凡人」と幼い頃からずっと思い続けてきたので、他の方より高い原稿料を請求しようなどと、まったく思えないのです。
森さんも、正確には「自信があるから最高額を要求する」のではなく、「相手が支払える最高額を要求するのはプロであれば当然」という、極めてビジネスライクな考え方なのだと理解しています。
文芸作品は、刷った部数に応じた印税をいただける場合が多く、10パーセントというのが一般的です(ただし絶対ではなく、それより多い場合も少ない場合も珍しくありません)。
それに対してビジネス書や英語本では、刷った部数ではなく実売に応じた支払いであることが多く、パーセンテージもさまざまです。
流水は、ビジネス書や英語本もいろいろと出していますし、10数社の出版社から本を出しているので、これまでさまざまな条件を経験してきました。
文芸畑の方たちに他ジャンルでの体験談をお話しすると、「え!? ビジネス書や英語本は、そんな仕組みなんですか?」と驚かれることも多いです。
以下の【印税率の秘話(みんな、興味ある?)】のポストでご紹介したように、過去には印税ゼロ(電子の印税のみ)ということもありましたし、3パーセント、5パーセント、7パーセント、12パーセントなど、本当にいろんなケースがありました。
印税率の秘話(みんな、興味ある?)
x.com/Catholic_Ryusui/status…
ギャラに関して、流水自身がこだわって貫いてきたのは、「相手から提示された条件を、そのまま飲む」ということです。
特に中小出版社さんとお仕事させていただく場合、予算面で先方に苦しいご事情があることは、ミーティングなどの際に、ひしひしと伝わってきます(もちろん、大手でも苦しい時代です)。
そんな時代でも、流水を書き手として信頼し、期待し、依頼してくださった方が提示してくださる条件には、そのまま従うべきだろう、というのが個人的な信念です。
それが相手への信頼だと思っていますし、もしだれかが悪意を持って自分を騙すなら、自分は、その程度の人間なのだと、あきらめもつきます。
それは本心ですが、同時に、「ギャラの交渉をするのが苦手」という面もあります。
お仕事のご依頼をいただいた際、原稿の分量や締切を確認するのは当然として、ギャラについて自分から確認したことは、流水は一度もありません。
そうしたスタンスについて「プロ失格かもしれないな」と思うことが多いのは、森博嗣さんのケースをよく知っているからです。
森さんは、締切が半年以内のお仕事は受けられないことで有名ですが、原稿の分量と同時に、ギャラも依頼があった時点で真っ先に確認されます。また、その出版社が設定できるギャラの上限を、最初の時点で確認されるのです。
そのギャラに見合った仕事を必ず納期までに果たす、という強いプロ意識を持っていなければ、できることではありません。
そして、森さんがそういう強気のスタンスを取れたのは、作家という職業にまったく愛着を持っていらっしゃらないから、という面もあるはずです。
流水の場合、作家という職業に愛着があるため、「こちらから過度の要求をして、面倒くさい人だと相手に思われたら、今後もうお仕事をいただけないかもしれないな」などと、つい考えてしまうのです。
ビジネスパートナーでも友人でも恋人でも、人間関係では、「相手に切られたら怖い」と思っているほうが立場が弱くなり、つい下手に出てしまうものです。
相手から嫌われることなどまったく恐れていない点こそ、森さんが最強のカリスマであり続けてきた秘密です。
実は、それはビジネスの成功法則としても、有効な方法として知られています。
ビジネスの戦略では、相手にぺこぺこ頭を下げる「米つきバッタのセールス」より、俺様と仕事したいなら、してやってもいいんだけどね、という「殿様セールス」をあえて選択するテクニックが推奨されることもあります。
ひとつ間違えば、ただの傲慢な人だと思われてしまいますが、高い実力が伴っている場合は、「この人は、自分の仕事にこれだけ自信と誇りを持っているんだ。ぜひ、この人にお願いしよう!」と相手が惚れ込むのです。
実力がない人がそれをすると、「ただの勘違いしたバカ」と思われて切られるだけですが、森さんのように、だれもが認める圧倒的な実力をお持ちの方なら、「殿様セールス」もアリでしょう。
関連する森さんのギャラ交渉エピソードとして、拙著「コズミック・ゼロ 日本絶滅計画」の文庫解説をお願いしたときのことも忘れられません。
森さんからは、「ぼくは、相手がだれであれ、文庫解説のギャラは○○万円だと決めています。そのぐらいの大仕事だと思っています。その条件で良ければ引き受けます」という、極めて明快なお答えをいただきました。
それは、文庫解説ギャラの相場の数倍で、もちろん、森さんの解説には、そのギャラ以上の価値があると流水は信じていましたが、「出版社がそれだけの金額を出してくれるかな」という点が気がかりでした。
出版社は1冊の本ごとに、かなり細かく損益計算をしています。
部数の多い本であれば、森さんの文庫解説ギャラも制作費に無理なく組み込めたかもしれませんが、流水の本はすでに部数が下がり続けている時期でしたので、出版社にその金額を出してもらうのは難しいかも……という点が気がかりでした。
結果的には、出版社と相談し、流水の印税を数パーセント下げていただくことで、ずっと夢見ていた森博嗣さんの文庫解説が実現しました。
「コズミック・ゼロ」の文庫解説は、森博嗣さんによる清涼院流水論として、永遠に色褪せない最高の文章を書いていただきました。
森さんにしか書きえない、まさしく超一流のプロのお仕事でした。
また、森さんは単に利己的な人なのではなく本物のプロであることを強調しておくと、森さんは、こうもおっしゃっていたのです。
「ぼくは自分の本に解説を書いてくれた人にも、可能な限り高いギャラを支払ってくれるように、いつも出版社には頼んでいます」
そんな森さんから文庫解説のお仕事を3度いただけたのも、本当に光栄なことでした(どの本か、すぐに指摘できるあなたは流水マニア)。
森さんには、流水が2012年から運営している作家の英語圏進出プロジェクト「The BBB」でも、たいへんお世話になり続けています。
実は、上述の「コズミック・ゼロ」文庫解説の件もあり、「すぐに大きな利益を生み出すのが難しい小規模の電子書籍プロジェクトは、森さんに参加していただくのは難しいだろうな……」と、当初は思っていました。
ですが思い切って率直なご意見を伺ってみたところ、「英語版については、ぼくがなにか作業するわけではないので、売り上げに応じた支払いをしてくれれば充分です。それがどんなに少額でも、まったく不満はありません」とのお言葉をいただき、以来14年、森さんの作品の英訳を続けさせていただいています。
(次回作「封印再度」の英訳は、海外電子書店の大規模なシステム障害の影響で準備が大幅に遅れておりますが、すべて順調なら、10月末の分冊1巻刊行を目標にしています)
長くなりましたが、本日は、同業者の方たちや作家志望の方たちの少しでもご参考になればと思い、森さんと流水のギャラ関連の話を書かせていただきました。
作家の原稿料について考えるとき、いつも思い出す森さんの以下の「的を射る言葉」で、この記事を締めくくらせていただこうと思います。
「読んだ人の心を良くも悪くも動かせないのなら、その作家は文章を書いて原稿料を受け取る資格がない」
【印税率の秘話(みんな、興味ある?)】
リルノさんが書いてくださっていますが、昔、講談社ノベルスから「秘密屋 赤」と「秘密屋 白」を出したときには、「500円ノベルス」を実現させたくて、印税を数パーセント下げてもらったことがあります🙂
また、TOEIC界の巨匠・ヒロ前田先生との合作で刊行した世界初のTOEIC小説「不思議の国のグプタ」は、インタビューでは話したことがありますが、価格を下げるため、紙の本は印税ゼロです😅(電子のみ印税が発生)
著者ふたりが印税を返上したことで、当初予定していた1,500円の価格を980円まで下げられました🫢ソウナノ?
印税ゼロというのは、さすがに前代未聞かもしれません🤔
そこまでしたからTOEIC界で信頼していただけた面もあり、お金より価値のある報酬をいただいたと思っています😌✨