あなたはiPhoneユーザーだろうか。
私は違う。堂々たるAndroid派である。
我が家の子どもたちは、iPhoneを使い、高校ではiPadを使い、娘に至ってはMacBookを溺愛している。
家の中はリンゴ、リンゴ、リンゴ。
気分はほぼ青森県だ。
一方、私はというとAndroid、そしてWindows。
リンゴ農園の真ん中に立つ、ただ一人のじゃがいもである。
だから正直、Apple製品の何がそんなに人を惹きつけるのか、さっぱり理解できなかった。
オシャレ?洗練?直感的?
いやいや、こっちは戻るボタンが欲しいんだよ、と。
そんな私でも知っている有名な話がある。
スティーブ・ジョブズが『弓と禅』を愛読していた、という話だ。
実は私も『弓と禅』を読み、心を揺さぶられた一人である。
多少なりとも武道を嗜んでいる身としては、
「わかる……わかるぞ、この感覚……」
などと、一人でうなずいていた。
だが、同時に大きな疑問も湧いた。
なぜジョブズが、弓と禅???
リンゴと弓、まったく結びつかない。
現代版ウィリアム・テルの話だったか?
その疑問は長年、私の頭の片隅に置き去りにされていた。
大田比路(
@xlix)(著)『2030年の世界を生き抜くための テック資本主義超入門』を読むまでは……。
本書によれば、ジョブズは実際に禅を学んでいたという。
そして、その思想がMacintosh、iPhone、iPodの設計思想につながっている。
言われてみれば、なるほど。
あの異様なまでのシンプルさ。
余計なものを一切置かない潔さ。「説明書を読まなくても使える」という、謎の自信。
完成したiPodを水に沈めて
「あぶくが出た分だけ、まだ無駄がある」
と言ったとか言わなかったとか。それは別の人の話だとか。
ジョブズの逸話は真偽不明なものも多いが、とにかく無駄を許さないホモ・サピエンスだったという点だけは、ほぼ確定事項だろう。
「今ここ」に集中する禅の思想が、「テック資本主義」に直結しているとは、正直考えたこともなかった。
「テック資本主義」のはじまり
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ホモ・サピエンスが言葉を使い始めた。
それが「テック資本主義」のはじまりだという。
初手からスケールが宇宙。
気分はもう人類史ダイジェスト版だ。
本書は、言葉の誕生からフィクションの発明、国家の成立、そして気づけばインターネットに支配される現在までを、
「いや、そこまで説明してくれる?」
という丁寧さで描いてくれる。
人類は言葉を手に入れ、言葉は物語(フィクション)を生み、そのフィクションをみんなで信じた結果、国家が生まれた。
考えてみれば、国境も、お金も、会社も、全部「そういうことにしよう」と全員が納得した壮大な思い込みである。
著者は言う。
ホモ・サピエンスのイマジネーションは、もはや現実そのものだ、と。
なるほど。
つまりこの世界は、
妄想力の高い人たちが勝ち残ってきた結果なのだ。
そう考えると、妄想癖も悪くない。
むしろ、将来有望ですらある。
私はここで少しだけ姿勢を正した。
本書は、早稲田大学で実際に人気を博した講義を一般向けに書き起こしたものらしい。
そりゃ人気も出るわけだ。
だって、内容は知的なのに、読んでいるうちに「俺もホモ・サピエンスの一員だったな」と思わせてくれるのだから。
興味のある人には、当然おもしろい。
だが、興味がない人でも逃げ切れない。
なぜなら、スマホを持った瞬間、我々はすでにテック資本主義の構成員として契約完了しているからだ。
著者は最後に、こう記している。
「この不確実性の世界のなかで、自分のイマジネーションをささやかながら信じてみればいい。それが、あなたの抱くべき唯一の答えである」
なるほど。
禅だ。
深い。
さらに「それでも道に迷ったら、Google Mapに聞けばいい」と。
悟りとGPS。
無心とナビ。
これが、『令和版・弓と禅』なのかもしれない。
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『2030年の世界を生き抜くための テック資本主義超入門』はツナグ図書館を通じてご恵贈いただきました。この場を借りて感謝申し上げます。