Universal Cartの登場:Googleの長年の野望は「カートのプラットフォーム化」へ昇華。エージェンティックコマースの主役は「ストア」ではなく「カート」へ
1. Universal Cartとは
a. Google Walletベースの永続的ショッピングカート、複数小売業者・複数サーフェス横断で動作
b. Search、Gemini、YouTube、Gmail内に常駐し、買い物客に追従
c. 価格履歴監視、再入荷アラート、互換性チェック、ロイヤルティ割引・カード特典の表示機能
d. チェックアウトはGoogle Pay経由または小売業者サイトへ商品移行後決済の選択可
e. 小売業者はマーチャント・オブ・レコードを維持
f. ローンチパートナー:Nike、SEPHORA、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfair、Shopify加盟店(Fenty Beauty、Steve Maddenなど)
g. 米国でSearchとGeminiで今夏展開、YouTubeとGmailは後続
2. UCP(Universal Commerce Protocol)の拡張
a. Shopifyと共同開発のオープン規格、カナダ・オーストラリアへ数か月内に展開、UK続く
b. ホテル予約・ローカルフードデリバリーへ垂直拡張
c. DoorDash、Uber、
Booking.com、Marriott Internationalなどが参画
3. AP2(Agent Payments Protocol)の消費者向け展開
a. Gemini Sparkで初の消費者向け実装
b. 「Nike Pegasus 41のサイズ10を90ドル以下で購入」など条件付き購入をエージェントに委任可能
c. 暗号署名付きデジタルマンデートで実行、ユーザー・マーチャント・プロセッサー間で検証可能な監査証跡生成
4. エージェンティックコマース成立の三要素統合
a. 従来は「商品(小売サイトのカート)」「購入条件(買い物客の頭の中)」「決済認証(小売サイトのチェックアウト)」がバラバラに存在
b. Universal CartがGoogle所有の単一サーフェスに3要素を統合
c. 商品=カート、条件=AP2マンデート、決済=Google Wallet
d. 小売業者は在庫プロバイダーとフルフィルメントパートナーへ役割再定義
5. 小売業者にとってのリスク構造
a. 公式メッセージは「マーチャント・オブ・レコード維持+新規獲得サーフェス獲得」
b. 実態はディスカバリー、カート管理、価格監視、互換性チェック、ロイヤルティ表示、決済認証すべてがGoogle内で完結
c. マーチャント・オブ・レコードとマーチャント・オブ・ディシジョンの分離
d. ロイヤルティ未統合が現時点での唯一の防波堤(Microsoft Copilotは既に実装済み)
e. Google, SVP, Knowledge & Information, Nick Foxの発言(
tipsheet.ai):カート段階での広告掲載は「TBD」だが方向性は肯定
コメント・注目すべき点
Googleが24年間挑戦し続けた「コマースの目的地化」を諦め、「カートのプラットフォーム化」へ戦略転換した瞬間。Froogle、Product Search、Google Express、Google Shoppingまでの系譜はすべて「ユーザーをGoogleの店舗に連れてくる」発想だった。Universal Cartは逆で、カートそのものをユーザーに追従させる。これは検索の延長線上にあるGoogleの本来のDNAに沿った設計で、過去の失敗から学んだ構造的な再定義といえる。
カートこそがコマースの真のコントロールポイントという洞察は、リテールメディア事業者全員が直視すべきだと思う。Walmart Connect、Roundel、Sephora Media Networkなど小売業者DMNの強みは「購入意図の最終地点を所有していること」だったが、その購入意図の最終地点がGoogle側に移行する。アトリビューションモデルの再設計が不可避で、特にラストクリック前提のRMN ROAS計測は破綻に向かう。
AP2の消費者向け展開は地味だが本質的な進化。条件付き購入マンデートは事実上「ユーザーの購買意思決定を事前に完了させる」仕組みで、これが普及するとリテールメディア・検索広告ともに「購入直前の説得」という従来のジョブが消失する。説得すべきタイミングがマンデート設定時に前倒しされるため、AEO/ACO(Answer Engine Optimization / Agent Catalog Optimization)の重要性が指数関数的に高まる。
「マーチャント・オブ・レコード vs マーチャント・オブ・ディシジョン」の概念分離は秀逸で、これは日本市場でも今後の議論の軸になる。楽天、Amazon Japan、Yahoo!ショッピングが「決済処理」だけを担い「購買決定」をGoogleやChatGPTに譲り渡す未来は十分にあり得る。日本のEC事業者・モール事業者が今すべき準備は、商品フィードの構造化データ整備(
Schema.org準拠、Product/Offer/AggregateRating/Reviewの完備)と、自社でのコンバセーショナル/エージェンティックレイヤーの構築。前者なしには可視化されず、後者なしにはGoogleの中間業者化を受け入れるしかない。
ロイヤルティ統合がGoogle Universal Cartの次の戦線。Microsoft Copilotは既にロイヤルティをカート内で扱っており(Targetが初の小売業者として、Target Circleロイヤルティプログラムを Copilot Checkout と密接に統合)、GoogleがTarget Circle、Sephora Beauty Insider、Walmart をUniversal Cartに統合した瞬間、小売業者が顧客との直接関係を保持する最後の壁が崩れる。日本市場で言えば、楽天ポイント、PayPayポイント、Vポイント等のID/ロイヤルティ経済圏がエージェンティックカートにどう接続するかが、国内プラットフォーマーの存亡を決める分岐点になる。